diary

I walked for two hours in the afternoon cold.
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クリスマスSS



−−−良い子のところにしかサンタさんは来ないんだよ。


12月24日の夜に。


「渋沢さん、何が欲しいですか?」
 クリスマスプレゼント。

 あんまり静かだから、てっきり寝てしまっているのだと思っていた。
突然の質問に参考書をめくる手を止める。椅子に座ったまま振り返ると、渋沢のベッドの上であぐらをかいてこちらを眺めている藤代と目があった。手元には食べかけのスナック菓子の袋と読みかけの漫画雑誌。思わず眉をひそめる。他人のベッドで物を食べるなと、何度か注意をしたが藤代は聞かない。

「どうしたんだ、唐突に」
「う〜ん、日ごろの感謝に何かした方が良いのかなと」
「当日の夜にそう言われてもなあ」
「それもそうですね」

 そう言ってあははと短く笑うと、ごろんと横になった。大きなあくびをしたせいか目の縁にわずかに涙がにじんでいる。
 
「藤代は何か欲しいものがあるのか?」
「え!!先輩、何かくれるんすか?」
「何で俺がお前にクリスマスプレゼントを贈らなならんのだ」
「日ごろの感謝を込めて……とか」
「ほおお」
「先輩、目が笑ってないです」 
「まったく、だいたいお前はなあ」
「げ!ストップストップ!クリスマスイブの日にまで説教とか勘弁してくださいよ。あ、こんなのどうです?肩叩き券10枚セット、有効期限はなんと一年間!」
「お前は俺の孫なのか!!」 
 
 せめて無期限有効にしてくれよ。そんなふうに溜め息をつくと、藤代はわがままだなあと言ってまた笑顔を見せた。
 
 いつからだろう、藤代とこんなふうにたわいない会話をするようになったのは。
 藤代は夜、こうやって時々部屋にやってきては、渋沢のベッドの上に座った。まるでそこが自分の居るべき場所であるかのように。同室の三上はリラクゼーションルームや談話室にいることが多っかったので、自然と二人で過ごす時間は増えていった。それはとても不思議なことのような気もしたし、そうでもないようにも感じられた。
 

 ガタン。

 突然、藤代がびくりと反応して跳び起きた。スプリングが派手な音を立てて軋んだ。
 
「どうした?」
「びっくりした」
「?」
「や…三上先輩が戻ってきたのかと思った」

 藤代は本当に驚いていたようだった。わずかに耳が赤くなっているのが分かる。藤代はそっと立ち上がりすたすた歩いたかと思うと、ぺたりと本棚の前に座り込んだ。
 藤代は三上が苦手なわけではない。三上は多少癖のある人間ではあるが、自分が認めた相手とは親しく付き合うし、寛大だ。藤代は三上と仲が良かった。むしろ共通の話題などは渋沢よりも三上との方が多いくらいであった。
 けれど藤代は、なぜか自分と渋沢以外の誰かが部屋にいるときは、ベッドの上に座ることはしなかった。
 先程のように遠慮無くくつろぐ姿を見せるのは、二人のときだけだった。
 
−−−俺だってそのことに、気付いてる。気付いている、けれど。

 気付いたところでどうしたらよいのかなんて全くもって分からなかった。机の上の参考書に再び目を落とす。

「あ〜あ、サンタクロース来ないかなあ」

 藤代が無邪気に呟いている。

「良い子のところにしかサンタさんは来ないんだぞ?」
「おかしいな。だったら何で去年俺の所に来なかったんだろ」
「さあなあ」
「ていうかそれだったら渋沢さんの所に来てないのもおかしいですよね〜」
「俺は良い子じゃないよ」
「うっそ!先輩超優等生じゃん」
「はは」
「あ〜でも、俺、やっぱり良い子じゃないかも」

 ふいに藤代がそんなふうに言った。声にはわずかな困惑の色が滲んでいるような気がした。藤代にしては珍しい。

「ちゃんと言わなくちゃいけないことが、言えないんです。」
「どうして?」
「怖いから」
「…………」
「伝えなくちゃと思っても、ダメ。自分にいっぱい嘘ついて、ごまかして、逃げてる。これって悪い子のすることですよね?」

 渋沢は後ろを振り返れなかった。藤代はきっと、渋沢の背中を真っ直ぐに見詰めている。
「藤代」
「欲しいものがあるのに」
「うん」
 
 かろうじて頷く。

 俺も、そうだよ。

 

 今よりもずっと小さな子どもだった頃、おもちゃ売り場で駄々をこねたことがある。あまりものをねだらない子どもだったから、両親は少し驚いていた。そしてやがて父がゆったりと言ったのだ。

−−−良い子にしていたらきっとサンタさんがプレゼントしてくれるよ。
−−−ほんとう?
−−−ああ、だけど良い子のところにしかサンタさんは来ないんだよ。だからそうやってお母さんを困らせてはいけないよ?
−−−うん、うん分かった。分かったよ!



 あの頃は待っているだけで手に入った。
 良い子にしていれば、プレゼントは届けられた。だけどいまはちがう。自分たちはサンタの正体を知ってしまった。(それだけでもう良い子ではなくなってしまったのかもしれない。)分かってしまった。待っているだけではだめだということを。

 藤代はきっと勇気を出して俺に伝えようとしている。だったら自分に出来ることは何なんだろう?
 


「藤代、俺、お前のこと、な……」

 
 

 願わくば、そう。
 大切な一言を彼に上手く伝えられますように、神様。



−END−
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